「『きれいですね』っていわれちゃったわよ~」
お馬鹿なスセリが、病院から喜んで帰ってきた・・・。
「咽喉ファイバーで声帯の写真撮ったのよ~」
「初めて見たわよ、自分の声帯」
「先生が、『声帯はきれいです』って~、うふっ」
スセリは、今朝も喉が痛かったので、大きな病院に行ってきたのだ。
耳鼻咽喉科にいくのは、小学校の中耳炎以来だった。
それで、ウキウキしているらしい。
「初見ですが、声帯はきれいです。
ただし、まっすぐなはずの所が、少し曲がっているので、
タコができている可能性があります。
一週間安静にしていただいてまだ改善されないようでしたら、
もっと詳しく撮ってみましょう」
てきぱきした指示が出た。
スセリの前の患者さんは、耳の遠いおじいさんと、
それをたどたどしく通訳してるおばあさんだった。
てきぱきした先生と二人のお年寄りのやり取りが面白かったので、
スセリは「ネタいただき」と喜んでいた。
先生が、打って変わってテンポのいい患者のスセリに、
テンポ良く話しかける
「粘膜の荒れを押さえる薬と喘息の噴霧薬を出しますので、
極力、喉を使わないでください。お大事に」
はい、ありがとうございますって、極力喉を使わないのは、
無理だろう・・・。
明日は若手とコント3時間だし・・・。
明々後日は歌のライブだじぇ~!
ピンチィ~~~~!なはずなのに・・・喜んで帰ってきてる・・・。
「だって、『キレイ』っていわれちゃったし・・・
初めて鼻からカメラ通したし・・・声帯とか見れたし・・・」
ピンチより、面白いが勝ってるらしい・・・。
どうするのよ、今日、カラオケボックス行って
ギターと歌の稽古の予定だったでしょ・・・。
「う~ん、でも喉使うなって言ってたからね」
「ギター弾いて歌うと、負けないように声出しちゃうからね」
「どうしたものかね・・・」
スセリは、初日から声が出ないという、
お正月公演の修羅場を乗り切ったせいか、ふてぶてしくなっている。
「まぁ、なるようにしかならないから、取り合えず禁酒!」
「今日はノド温存で、ネタでも作るよ」
「取り合えず寝るね・・・なんか薬飲んだら眠いや」
・・・・。
大丈夫なのか?
四谷Kでのライブ・・・。
(ぺタ、ペタ、ペタ・・・何かがゆっくりやってくる足音)
えっ?あ、あの・・・い、いらっしゃい・・・。
「・・・・・・」(黙って、見上げている)
ん?何?あ、あの・・・、どうしたの?
「・・・・・・」(小首を、かしげている)
何か・・・用事かしら?
「・・・・・・」(黙って、うなづいている)
用事があるんだ、この『私の観察日記』に・・・。
「・・・・・・」(大きく二つ、うなづいている)
覗きに来たの?
「・・・・・・」(困って、首を振っている)
違うんだ・・・。じゃあ、スセリに会いにきたの?
「・・・・・・」(体を揺すって、喜んでいる)
そうなんだ、スセリに会いに来たんだ。
でもね、今、薬が効いてるらしくて、寝てるんだ。
何か、伝言しておこうか?
「・・・・・・」(大きく一つ、うなづいている)
いつも読んでるの?この日記。
「・・・・・・」(静かに、うなづいている)
じゃあ・・・スセリのノドが心配で、きたのかしら?
「・・・・・・」(静かに、首を振っている)
じゃあ・・・ライブの予約かしら?
「・・・・・・」(再び静かに、首を振っている)
じゃあ、スセリの、恋のお相手に立候補?
「・・・・・・」(静かに、のけぞっている)
違うんだ・・・困ったな・・・わからない・・・。何の用なのかしら?
あ、駄目だよ、起しちゃ・・・具合悪いんだから・・・。駄目だよ突っついちゃ!
「何、何、何~?誰が突っついてるの?」
「・・・・・・」(スセリを、じっと見つめている)
「ん?アキラ?アキラじゃない!何突っついてるの?
やめてよ、あたし疲れてるのよ・・・。
アキラは、さびしい一人暮らしのOL、
小田小百合さんのアパートに住んでいるんでしょ」
「・・・・・・」(悲しい目で、見つめている)
「何よ~、遊んで欲しいの?」
「・・・・・・」(ものすごい勢いで、首をブンブン縦に振っている)
「しょうがないな~、私がご主人じゃないのに~。
ここんとこ、ご無沙汰だったからね。わかった遊んであげるよ」
「・・・・・・」(期待して、小刻みに震えている)
「ほーら、アキラ。高い高い~、低い低い~、回転ぶるるるる~ん!
アキラ、逆回転びよよよよ~ん!大空高くぐしょしょしょしょしょ~ん!
カクン、カクン、クワック~ン、ビロビロ、ビロ~ン、ドレドレドレ~ン!
アキラ、ドンガラガッタ、ガク~ン!ぐるっと回って、ぐるりんちょ!
はい、おしま~い!」
「・・・・・・」(満足げに、ぐったりしている)
「そんじゃね、またね、アキラ」
「・・・・・・」(満足げに、お辞儀をしている)
(ぺタ、ペタ、ペタ・・・満足げに、ゆっくり帰っていく足音)
ス、スセリ・・・。今の・・・アキラ?
「うん、初登場じゃないよ。ほら、暖房の時に出てたよ」
そ、そういえば・・・。友達?
「うん、そうだよ。かまって欲しかったんじゃないの?
私、出かける!せめて、ギターだけでもジャカジャカしてくるよ」
ノドはどうするの?歌は?もう明々後日本番だよ。
「最悪、口パクでいいんじゃないかな?聖子ちゃんもやってるし」
自分を、何と比べてるのよ!
それに口パクって、予め歌を録音しといて、その歌声に合わせて、
口をパクパクさせるんだよ。
録音したものなんかないじゃない!
「そんじゃ、こないだ買った、高橋真梨子セレクションでも流して、口パクする?
あの人、歌うまいし・・・あと、あるのは、女性ボーカルだと、明菜ちゃんと杏里とドリカム・・・」
馬鹿!馬鹿!ぶあ~~~かっ!!!ぶぁかものぉ~~~!!!
「いやだ、本気で怒ることないじゃない・・・。いってきま~す!」
帰ってくるな~~~~!
ふ~ふ~ふ~・・・・あの女、世の中舐めてる・・・・。
どうか・・・どうか、スセリの歯止めになるような・・・・
常識のある、賢い男の人が現れますように・・・。
か、神様、仏様・・・ねんねこ様・・・なんでもいいので、お願いします~!
「あ、アヒルのアでアキラが登場しました~!」
「こわっ・・・。アキラ・・・。でかっ・・・。」