「喉が痛い~」
スセリは、風邪の症状が治まってるのに、
ツバを飲むだけで喉が痛いらしい。
「こりゃ、風邪じゃないな・・・耳鼻咽喉科だな・・・。」
どうやら、喉が痛いのは風邪のせいではなく、
喉そのものを傷めているようだ。
原因は色々あると思うのだが、お正月公演の時に
出ない声を無理に出していたので、傷めたのではないかと思う。
風邪もひいていたので、そのせいかと勘違いしていたのだ。
こういうとき、スセリはどう思うかと言うと・・・
「なんだ、風邪かと思うからおとなしくしてたのに、損した。
喉傷めてるだけなら、もっと遊びに行ってればよかった」
馬鹿である・・・。
しかし、傷めてから12日も経っている。
耳鼻咽喉科に行って、改善されるものなのだろうか?
自然治癒の期間に入っているのかもしれない・・・。
「明日、起きてから考えよう」
「今日、喋る仕事があるし、そのあと宴会だから・・・」
「お正月だから、着物着ようかな?」
体の手入れに興味がないらしい・・・。
「ちょっと、ビール買ってくる」
は?朝ですけど・・・。
外は雨だし・・・。
「馬鹿ね、朝だからビールなのよ~。
朝から日本酒だったらアル中じゃない!いやだ~!」
いや、十分依存症だと思いますけど・・・。
「行ってきま~す!」
(ドタッドタッドタッドタッ スセリが出かける足音)
(ザーッ、ザーッ、ザザーッッ 強まる雨の音)
おいおい・・・。まったく・・・。
スセリは、昨夜、仲の良い友達(向こうはともかくスセリが思ってる人)と、
日本酒を飲んで、ご機嫌で帰ってきた。
外で日本酒を飲むことはめったにないのだが、随分楽しかったらしい。
酔っ払って、降りる駅を乗り過ごしそうになり、
あわてて降りたら傘を忘れて、家まで濡れて帰ってきた。
雪になるかと思われる冷たい雨だったが、
ゲラゲラ笑っていたので、楽しい気分の方が上回っていたのだろう・・・。
(ピッチピッチ、チャップチャップ、ラン、ラン、ラン・・・
楽しそうに雨の中歩いてくる音)
こんにちは~。おじゃまします。
へー、こうなってるんだ『私の観察日記』って・・・。
ふ~ん。
あ、初めまして。
あたし、リカコです。
小学校6年生です。
え?小学生なのに、どうしてセーラー服着てるかって?
小学生って言ったら、男の人引いちゃうでしょ。
ご飯とか奢ってもらえなくなるから・・・。
だから、中学生のフリしてるんです。
あ、うちの家訓は、「お小遣いは他所からもらえ」なんです。
気分良く、お金を出してもらうために、日夜研究してるんですよ。
うちのお母さんなんか、28歳までセーラー服着てたんですよ~!
スセリさんなんか、今でも着てる?
40過ぎて、セーラー服?
すごい!さすが、私の生みの親!
え?あ、はい・・・。
スセリさんは、私の生みの親です。
はい、カラッと明るい詐欺師の一家の女の子です!
はい、3年前に、生んでもらってたんですけどお蔵入りで、
このたびテアトルEの卒業公演で、陽の目を見ることになりました。
長いお芝居なので、一場だけなんですけど・・・。
はい、1場だけです。
全部やると3時間くらいかかるそうですから。
上演時間とか、何も考えないで、ただ、書いたみたいですよ。
スセリさんの処女戯曲だそうです。
うちの詐欺師一家のコメディだけじゃなくて、もう1本、
スセリさんが以前に書いた、二人コントの別役実風
『バス停』っていうのもやるそうです。
言ってませんでしたか?
ああ・・・スセリさん・・・「多分、稽古観たら腹立てて怒る」って、
演出のNさんに言われているので・・・。
嫌な予感がするんでしょうね。本番しか来ないそうです。
ええ、あの人、怒りっぽいでしょ・・・。
彼氏にテレビ投げた話、有名ですよね。
彼氏の頭踏んだ話とか、灰皿叩き割った話とか、
枚挙に暇にないですよね・・・。
え?小学生なのに、難しい言葉?
あ・・・だって、うちは詐欺師の一家ですから・・・。
あの、詐欺っていうのは、犯罪の中でも唯一、
被害者が構成原因の一つになっているものなんです。
ですから、だまされる人がいなければ、成立しない犯罪なんですね。
そのために、私達も演技の修練や、
知識、技術の習得が必要となってくるんです。
あの、今日はキャラの説明で時間使っちゃったので、また後日来ます。
ええ、程よい時間を読むのも、詐欺師のコツです。
なんかスセリさんは、
「結婚詐欺でもいいから、ひと時、夢見させてくれないかしら」
って思ってるみたいだけど、良かったら、うちのお兄ちゃんがきますから。
よろしくお伝えください!
それでは失礼します!
(ピッチピッチ、チャップチャップ、ラン、ラン、ラン・・・
楽しそうに雨の中歩いて帰る音)
(ポツッ、ポツッ 弱まる雨の音)
(ドタッドタッドタッドタッ スセリが帰ってくる足音)
「ただいま~。寒いね~」
「え?誰が来てたの?リカコ?リカコって・・・」
「ああ、『オー・マイ・ゴッドファミリー』の?」
「ふーん、顔見せにきたんだ・・・」
なんか来月デビューなんだって。
「まぁ、どうでもいいよ」
「もう3年前に書いたのでしょ、興味ないな」
「そんなことより、とりあえず、飲もう!そんで部屋の片付け!」
今日仕事じゃない。
「いいの、余興だから」
「ちょっとどいて、じゃまじゃま」
「フ~、何で毎日散らかるんだろうな・・・」
「だれか、散らからない家って発明してくれないかしら?」
結婚詐欺師でもいいから・・・この女に恋が訪れますように・・・。
スセリが、多分、稽古観にいったら・・・喧嘩になるだろうな・・・。