「ボクシングは痛そうだから、ちょと・・・」と、言う人が多い。
ボクサーに聞いてみると、痛さは、殴られた場所じゃなくて、「身体全体に響く痛さ」だそうだ・・・。
それでも、ボクサーはリングに上がる。
ボクシングは、厳しい訓練で鍛えてきた者同士の、殴り合いだ。
路上の喧嘩とは違う。
殴り合いに耐えるだけの身体を作ってから、リングに上がっているのだ。
親しいジムに練習を見学に行ったりすると、本当に凄い。
やんちゃ盛りの選手と、指導するトレーナーとのやり取りも面白い。
見ているうちに、感情移入してしまうので、その選手がリングで殴られていると、
自分が殴られてる気になる。
その時は、さすがに「痛そう~」と思ってしまうので、冷静に試合を楽しめない。
しかし、それはまだキャリアの浅い選手のことで、
私は、『強いもの同士の殴り合い』は好きだ。
流血は、いまだに苦手だけど・・・。
ボクシングは、ただの殴り合いではない。
私は、『ゲーム性』や、『選手の歴史』『課題の消化』『ジムやトレーナーの手腕』という、
背景のドラマの方も楽しんでいる。
むしろ、そっちの方が楽しいかもしれない。
選手の中には、エリートもいれば雑草もいる。
いい環境のジムでスタートできる選手もいれば、
トレーナーやジムに合わなくて、やめたり移籍する選手もいる。
プロテストを受けた時のジムが、選手の権利を持っているからだ。
簡単に他所のジムにはいけない。
選手は商品でもあるからだ。
こういう所は、お笑いの世界と同じだ。
天才もいれば、普通の子もいる。
事務所やマネージャーに恵まれなくてやめる子も、移籍する子もいる。
きっと、他のジャンルの世界とも共通する所があると思う。
ボクシングのジムの中には、浪花節に「明日のジョー」みたいな地方ジムもある。
「丹下のおっちゃんと矢吹ジョー」みたいな関係の師弟もいる。
「死んだ会長の意志を継いで」とかもある。
「寝食ともにして」のような選手もいる。
私の年齢以上の人は、こういうボクサーのあり方が好きだ。
熱くなるし、泣けてくる・・・。
しかし、残念ながら、人間ドラマがあっても、世界チャンピオンにはなれない。
根性だけでは、世界まで上り詰める事はできないのだ。
天分も必要だが、出会いや、運も必要だ。
先ず、ジムにお金が無ければできない。
興業は、億単位のものになるので、選手の所属するジムの力が必要なのだ。
そして、試合をするには、コネクションがなければ王者側がうけてくれない。
王者も世界中からオファーがあるし、年に何度も試合は出来ないからだ。
これらの条件が、いい時期に満たせずに引退する選手もたくさんいる。
運よく興業が決まっても、ピークが終わってからの挑戦で、
敢え無く敗北する選手もいる。
ボクシングは選手生命が短いのだ。
お笑いや舞台は、というと・・・そもそも、定年とか引退とかが無い。
無論、年齢制限も無い。
やろうと思えば、一生できる。
そんな事で、私は芝居をを観にいくより、ボクシングを観にいく事が多い。
慌てていっているのだ。
戦ってる選手の背景を読みながら、自分に投影しながら、気合を入れてるのだ。
ボクシング関係者から、「そんなにボクシング好きなら、独身のトレーナー紹介しようか?」
といわれる事がある。
そういう時は「ありがとうございます。あまり打たれてない人、お願いします」と返している。
「現役時代打たれてない人を」ということなのだ。
その話は笑って終わる。
ボクシング仲間のギャグなのだ・・・。
50歳になっても、誰も結婚してくれなかったら、「打たれててもいいから紹介して!」
とすがりつくかもしれない。
上下の厳しい世界なので、上の人が言えばトレーナさんも従うだろう・・・って、情けな~い!
自力で見つけたる~~~!
「蒲田の美味しいモツ焼きやさんは、世界チャンプの畑山選手が、
4回戦ボーイの頃からお世話になってたお店だじょ~」
ボクシングジムの人に紹介されていったんだよね。
「『お前も世界一になれ!』って言われてるじょ~」
ど、どうしたものかな・・・?