スセリは『凝り性』だ。
それは、子供の頃からの性分。ジグゾーパズルに凝れば、同じパズルを何回もやり続ける。(しかもルノアールとか・・・色の魔術師だべ)完成すれば壊し、完成すれば壊しで、両親から随分精神状態を心配されたものだった。(小学校のときIQ60でひと騒動だったし)しかし本人はタイムを計ったりして「あっ、3分縮んだ」と、喜んでいるのだ。
本当に『凝り性』という言葉で片付けられるのだろうか?その熱中の仕方には、本人自身も呆れる事が多いようだ。呆れてもそういう性分なのでやっぱり熱中してしまうらしい。『確信犯』というのではあまり気の毒なので、『軽めの偏執狂』と、呼んでおこう。
今日の『軽めの偏執狂』は実家に帰っているときに起こった。
「子供の展覧会が近づいていて、ダンボールで額縁を作りたい」という申し出がきっかけだった。8歳の男の子と5歳の女の子。スセリの甥っ子と姪っ子だった。
「いやな予感するけど、引き受けるか・・・」
(スセリも多少の学習能力があるので自分の『偏執狂』には気をつけているらしい)
「じゃあ、今から5時間だけ頑張って、その範囲で作るね」
(折り合っている・・・自分と折り合っている・・・いいぞいいぞ~!)
「ダンボールを切って、セメダインで貼り付けるだけでいいんだから・・・」
「簡単簡単、衣装や小道具も自分で作っちゃうんだから、このくらい楽勝よ!」
「・・・ダンボールって、まっすぐ切れない・・・」
「・・・曲がって切れたほうが、味がでるのか・・・」
「・・・細長く切って丸めると、シュールな感じ・・・」
「・・・素材の質感の違うものを合わせると、いい雰囲気・・・」
あっという間に、はまってしまった・・・。
おまけに、いつも家族が食事を取る実家のリビングのテーブルの上で始めてしまったからたまらない。
「昼ごはん?今、誰のためにやってると思ってるの?」
子供達とおばあちゃん(スセリの母)は、子供部屋の勉強机でランチになった。
「おやつ?そういう状況じゃないでしょう?」
子供達とおばあちゃんは、子供部屋の勉強机でおやつをとった。
「夕ご飯?取り返しのつかないことになるわよ!」
子供達とおばあちゃんは、子供部屋の勉強机でおでんを食べた。
「テレビ?今日は見れません。見たかったら2階のテレビを見なさい」
子供達とおばあちゃんは、早めに眠りに就いた。
真夜中3時過ぎ、やっと納得のいくものが3点できた。
「あとは英字新聞を買ってきて、貼れば完成だわ。これなら人様の前に飾っても恥ずかしくない」
「初めて作ったから、20時間くらいかかっちゃたわね。次はもっと早くできるわ」
「あら?みんな寝てるの?」
「しょうがないわね。じゃあ勝利の美酒でも飲んで寝るか!」
スセリは一人で明日の朝ごはんとお弁当の仕込みをしながら、あわただしいキッチンドリンクをして、二階で眠った。
翌朝、寝酒覚めやらぬ身体で朝ごはんの支度に降りていくと、おばあちゃんがなんともいえない顔をしていた。
「すーちゃん。(実家ではこう呼ばれている)額縁・・・」
スセリがリビングのテーブルの上を見ると、さすが、8歳と5歳の子供達。20時間かかった額縁を朝一番で壊していた。
「壊しちゃったの?あらら。しょうがないな。朝ご飯にするから片付けなさ~い」
「今日の朝ごはん、グラタンだよ~」
「昨日ずっとかわいそうだったからね、朝からみんなの好きなものだよ~」
子供達は怒られないとわかり、楽しそうにスセリの指示に従った。ダンボールの額縁はサクサクと子供部屋に片付けられ、丸一日ぶりにリビングのテーブルの上で食事になった。
スセリは『軽めの偏執狂』ではあるが、終わったことには何の興味ももたないのだった。